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ジャズ考現学 - 鷲津を打ち負かしたブラッド・メルドーの魅力 -

2005/02/01

ジャズピアニストを目指してニューヨークで修業していた「ハゲタカ」の主人公・鷲津政彦だが、彼は若きピアニストの演奏を聴いたことで、自らの限界を痛感。そして運命の渦に巻き込まれ、彼はハゲタカ・ファンドの世界へと身を投じていく。
その若きピアニストとは、今やジャズ界で若きカリスマとして君臨しつつあるブラッド・メルドーだ。70年代から世紀末までのジャズ・ピアノシーンを三分したハービー・ハンコック、キース・ジャレット、チック・コリアという巨人が同時に3人も登場してしまったことで、若手の入り込む余地がないとされていた95年、彗星のように登場したのがメルドーなのだ。

メルドーは、1970年マイアミ生まれ。6歳からクラシック・ピアノを学び、その後14歳で、ジャズ・ピアノに傾倒。93年に初のリードアルバムを放ち、95年「イントロディーシング・ブラザ・メルドー」でメジャーデビューを果たした。
ジャズとは進化と融合を重ね、常に時代と共に息づく音楽と言える。果たして、メルドーの登場は、先の3巨人のような熱気やグルーブの系譜を引き継ぎながらも、独特の繊細でリリシズムを醸し出し、骨太のジャズ魂を感じさせるという新境地を生みだした。

新境地が生まれたのは、彼のスピリッツだけのせいではない。従来ジャズピアノでは、コード進行中心だった左手で、右手のメロディとは異なる旋律を即興でこなし、ジャズ史上初の“ポリフォニック・ジャズ・ピアニスト”と呼ばれるほどの技巧があってこそだ。両手でそれぞれのメロディが奏でられるこの技法によって、異なる二つの感情が混在した不思議な世界観が生まれることになるのだ。

私が初めて彼のピアノを耳にしたのは、00年のアルバム「プレイシズ」だったが、その時の衝撃は今でも忘れない。風情からいえば、ビル・エンバンス風なのだが、もっと多感でそしてビルにはなかった「強さ」が印象的だった。おそらく、それは超絶技巧と彼が持つ音楽への姿勢、あるいは生き様が織りなす“マジック”だったのだろう。
 さらに彼のトリオ「アート・オブ・ザ・トリオ」の諸作品も、なかなかの聴き応え。静かなる覚醒とでも言いたくなる刺激は、格好いいジャズを求めたい人にはお勧めだ。

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